一般的にスラリーを濃縮できる装置は効果で複雑な操作が必要になることが多い。そこで、自動乳鉢を用いて、より安価で簡便にスラリー濃縮が出来るか否かの可能性検証を行った。その結果、加熱式自動乳鉢を用いればスラリーの濃縮は可能であることが分かった。
実験に用いたD18SEBの詳細はこちらをクリック
自動乳鉢D18SEB機を用いて、フィルム二重断熱カバーに吸排気口を施し、空気を吸排気させ、かつスラリーを60℃程度に加熱することにより、少量のスラリーを平易に濃縮できることが分かった。
これは、「スラリー専用エバポレーター」としての使用可能な証明にもなりうると考えている。
一般的には、スラリーを濃縮する際には、デカンター遠心分離機、シックナー(濃縮タンク)、蒸発濃縮器を使用する。しかし、デカンター遠心分離機は高額な装置で、場所も占有する。また、運用コストも高いために、導入には慎重にならざるを得ない。シックナーは、スラリーの粒子サイズや濃度によっては、濃縮に時間を要する場合がある。また、少量の濃縮には向いていない。
これらの課題を解決するために、今回、石川式撹拌擂潰機(自動乳鉢)を用いて、少量でかつ平易な方法での濃縮方法の実験検証を行う。具体的には自動乳鉢のフィルム二重断熱カバーに吸排気口を施し、空気を吸排気させ、かつスラリーを60℃程度に加熱することにより、少量のスラリーを平易に濃縮できるか否かの検証を行う。
・自動乳鉢
実験に使用する自動乳鉢(石川式撹拌擂潰機)はD18SEB機である。小型機D18Sをベースに、磁器乳鉢の底が120℃まで加熱できるようにした開発機である。
(詳細は弊社ホームページ 製品情報>開発品のご紹介 参照)
磁器乳鉢には加熱・冷却専用のCC磁器乳鉢を用いた。
CC磁器乳鉢とは、一般的な磁器乳鉢の外側に弊社で開発した熱伝導接着剤を介して、銅鉢で覆われた磁器乳鉢である。磁器乳鉢は熱容量が大きく、底のみを加熱すると底のみが温度上昇して、側面などはなかなか昇温しない。そのため、底のみが膨張し、最悪の場合には割れてしまうこともある。その懸念を解消するために、磁器乳鉢全体を銅鉢で覆い、底のみを加熱しても銅鉢が先に温まり、外側全体から均一に磁器乳鉢を昇温することができるようにしたのがCC磁器乳鉢である。D18SEBのヒーターの温度特性は図4に示す。
・凝縮器
トラップ用凝縮器には、EYELA UT-1010(東京理化器械株式会社)を用いた。
・ポンプ
空気の給排気用ポンプには、NVP-2000(東京理化器械株式会社)ダイヤフラムポンプを用いた。ダイヤフラムポンプは、剪断力が小さいため、流体をやさしく移送できるメリットがある。これにより、スラリーにダメージを与えず、空気の吸排気が可能となる。また、メンテナンスが容易なこと、比較的安価に入手できるなどの利点がある。
図1.D18SEB装置全体写真
図2.D18SEBのヒーターとCC磁器鉢写真 図3.D18SEBの断面図
図4.D18SEBヒーターの温度特性
スラリー:電波シールドペースト DOTITE FE-107(藤倉化成株式会社)
成分名 | 含有量(%) |
銅 | 50~60 |
銀 | 0.52 |
キシレン | 0.18 |
エチルベンゼン | 0.18 |
トルエン | 33 |
表1.スラリーの成分表
実験システム構成を図5に示す。
D18SEBへの吸気の流入は自由流入とした。廃棄側から凝縮器を介して、ダイヤフラムポンプで吸引することにより、D18SEB機のフィルム二重断熱カバー内の空気の吸排気を行うようにした。
図5.実験システム構成
(1)D18SEB機に、スラリー(DOTITE FE-107)を500g投入する。
(2)D18SEB機のCC磁器乳鉢の底温度が60℃になるように加熱装置を設定する。
(3)温度設定完了後D18SEB機を稼働させる。(撹拌・混合開始)
(4)排気処理: D18SEB機フィルム二重断熱カバーの排気カップラーを凝縮器に接続し、フィルム二重断熱カバー内の空気を吸引する
(5)乳鉢底温度が60℃になってから、実験を開始する。底温度は60℃一定に保つ。
図6. 初期のスラリー状態
図7. 実験開始30分後のスラリー状態
実験を開始して、30分でスラリーの状態を観察した。
初期状態では、粘性を持った液体(図6のピンク色の液体)であった。30分後には、図7のようにヘラで削り取れる程度に固体化しており濃縮されていることがわかる。
これは加熱と空気の吸排気によるフィルム二重断熱カバー内環境が負圧になることで、スラリーの濃縮が加速されたと思われる。
弊社開発品である18ZDEBのような真空型で加熱タイプの装置もあるので、それを用いれば、さらに濃縮が加速できると思われる。
実験の動画は下記でご覧頂けます。